先生の臨床
更新日:13 時間前
2013年前後の記憶を再構成したものです。主語がわたしとなります。記憶であるので、お許しください。公式な文書ではなく、今回は親しい人との会話で震災について話していたことを記録しようと考えています。
東日本大震災ののち、石巻市開成南境地区に大規模な仮設住宅がありました。その時に、市内の高校生がボランティアに来てくれました。そのときの出来事です。今回は専門書の引用はしておりませんので、ご注意ください。また、ここでの先生は教師の意です。
ところで、「人間を理解する」ような科目がケアに関連する学問・技術にはあると思うのですが、本を淡々と読む場合もあれば、制度について解説の場合もあります。一方で、小説や詩を引用する先生もおられます。どんなときだったか。介護の先生が話していたのは、医師の処置も終わり、生活場面に戻ってきたときの、福祉専門職の「臨床」のときだったか、と思い出します。
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久々に、高校3年の時の担任の先生に会った。 河北インター付近でご飯を食べて、コーヒーを飲んだ。
「元気だった?気になってた」
「そういえばまた学校に通い始めて。勉強できないけど」
先生は全く否定せず笑った。
「でも、あんたたちってみんなそうだよね。みんな、別に勉強好きじゃないけど。でも、この人たち、学校が好きなんだなーと思ってた」
わたしの出身は古川女子高校である。普通科と衛生看護科があった。宮城県では公立高校の男女別学は99年に知事が共学化を宣言し、2010年代までに進む。ところで、石巻女子高(普通科のみ)は、石巻好文館高校となり、女子の文字が残っている。男子校は石巻高校、古川高校と名前の変更はない。じつは、わたしの担任の先生も、古川女子高が共学化で名称変更がなされるとき、「好」の字を入れたら、と言っていた。わたしは冗談みたいと笑ったのだけど、石巻には残っていた。だから、すぐにそのメッセージがわかった。
震災の日、先生は石巻に赴任されていた。 わたしは東京におり、最初はメールで確認、しばらくして電話で話した。
「大丈夫ー、いまわたしの前にはカシパンが山積み」
冗談を言うので、少し笑った。
「それどころか…、じつは震災の直後に、避難者が来ると思って車を詰めて停めようとしたら、水たまりに足を取られてくじいちゃってさ。それ以来、役立たず。こんなときに、お荷物」
その時はこのことをただ受け取って聞いた。
しばらくして、石巻にわたしが行くことになり、夕食を一緒に食べた。
「声をかけてくれた先生(医師)が、宮城出身の人を探してると。石巻に来ても何にもいいことはないけど来ませんかということで帰ることにしました」
わたしは笑って話したが、先生はひどいね、という声色で
「そんなこと言ったら、あんたは来るしかないじゃない。ずるいね」
そして、わたしはだんだんとその意味を体感していった。
また別の日の先生との食事会。
「最近SNS書いてないね」
「なんだか文章を書くことができないんですよね」
「あなたは、書けたら違っていたのにね。でも、書けないのかもしれない」
このころから、先生の震災時の体験も聞かせてもらうようになった。 じつは教え子を亡くしていたこと。亡くした子達へ、学校として何か送り出すことをしてやれないか。先生は学校に問いかけた。しかし、学校としては、特別なことはしないという判断になった。 先生はその教え子の自宅に向かった。火葬のため親が山形にこどもを連れて行った、という話も聞いた。 この頃に、わたしは山盛りのカシパンの想像をさせられていたのだと思う。
しばらくして、先生から相談があった。
「あんたのいる仮設住宅団地に高校生をボランティアにいかせられない?」
「何人ですか?」
「全校で」
開成・南境地区の仮設住宅は、最大で5,000人が入居されていた。わたしはそこに設置された診療所に勤務していた。受け入れは可能かもしれなかった。 近くにいた支援団体の方に話すと、話はまとまり、全校生徒がいくつものグループにわかれて、各団地をたずねる事になった。
「あの人たち、震災以来ずっと何かしてもらう側なの。もらうばっかり。そして、先生も、そういうなかでは、余計なことしないほうがいいって感じてしまう。高校のすぐ目の前に大きな仮設住宅があるのに、何にもしないって…」
全校生徒で何班にも分かれて仮設住宅に来られた。このとき、農業科のあった高校から鉢植えもプレゼントしていただいた。
担当の生徒がなかなか来ない!と住民さんが生徒を迎えにいく一幕もあった。お茶を飲んでおしまいのところもあった。これでよかったの?という生徒もいたらしい。 その後も、細々と交流もあり、住民文化祭を開く際に、茶道部が来てお茶をたててくれたこともあった。行政から当時の部長さんもいらした。とてもおおらかな方で、たくさん褒めてくれた。お礼がてら、また先生と食事会。
「茶道部の先生、何回もお茶の準備してくださってました。疲れたんじゃないかな」
「外の方がいきいきしてるかもしれない」
と、先生はうれしそうだった。
そんな先生から紹介された本は川上弘美の『センセイの鞄』でした。
